前代未聞の構成力を持つ作品、銀魂

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漫画・アニメ作品

本記事では、銀魂という漫画作品の構成という観点から、この作品のすごさを語っています。

ついに、銀魂の最終巻である77巻が発売された。
連載15年。小3の時に出会った私ももうすっかりマダオ(まるでダメな大人)である。

今回は、そんな『銀魂』という作品の構成について語ろう。

今でも銀魂が好きな人、昔好きだった人、あるいは一度も見たことがない人にもこの記事が届いたら嬉しい。その為にも具体的なネタバレは出来るだけ避けてこの記事を書いた。

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銀魂の基本情報

黒船…ではなく宇宙船によって開国された江戸。
主人公は、宇宙人(作中では天人と呼ばれる)が歩き回る江戸のかぶき町でなんでも屋を営む坂田銀時——通称、銀さん。
彼はかつて、地球に攻め入った天人を排除しようと勃発した攘夷戦争の英雄だった。
しかし敗戦で全て失い、今は江戸で万事屋をやっている。

彼が営む万事屋には、廃れた道場の跡取り・志村新八。傭兵部族の天人・神楽。犬の定春が加わり、3人と1匹で問題を解決したり人を助けたりする。

というのが基本の展開だ。
ジャンルは「SF人情なんちゃって時代劇コメディー」。
基本的には1話完結のギャグ作品だが、時折シリアスな長編を挟む。

これだけ押さえてくれればこの先を読んでも「全くのちんぷんかんぷん」にはならないと思うので本題に移ろう。

大きく3つに分けられる、漫画やアニメ作品の構成パターン

漫画やアニメ作品の構成は、大きく3パターンに分けられると私は考えている。

A構成…一連のストーリーで成り立つ作品

【特徴】

◉連載開始時点である程度ラストまでの展開(本筋)が決められており、ゴールに向かって着々と、計画的にストーリーが展開していく。

読者もゴールが見えている

◉ストーリーの進行が最優先なため、話の筋に関係ない話はほとんど入れられない

該当作品:ONE PIECE、ハイキュー、鬼滅の刃、ゴールデンカムイ、キングダム、スラムダンク など。

B構成…数話完結の話が繋がり本筋が進む作品


【特徴】

ある程度独立している話を各話ずつ展開する裏で、少しずつ「本筋」となるストーリーが展開していく。

読者もゴールが見えている。

比較的自由に話を描くことができるが、話の本筋にあまりに関係がない話はできない。

該当作品:TIGER&BUNNY、化物語 など。

C構成…1話ごと完全に独立している作品

◉各話ごとの繋がりがほとんどなく、それぞれの話が完全に独立している。

そもそもゴールがない。

完全に自由に話を描けるが、それぞれが独立しすぎて本筋が作れない。

該当作品:ギャグマンガ日和、おそ松くん、こち亀、クレヨンしんちゃん、ドラえもん など。

結論から言うと、銀魂はA構成、B構成、C構成、全てを両立させているという点で前代未聞だ。

銀魂の基本構成は、B構成とC構成の両立型

ここがすごい①最初から読まなくていいので、新規参入しやすい

銀魂はシリアスとギャグで構成されており、形としてはBの「数話完結の話を繋げて本筋を進める作品」に近い。

だが特徴的なのが、本筋を完全にストップして別の話をやることだ。

例えばマダオの観察日記や竜宮篇などは、あってもなくても本筋には影響が無い
あの超人気回のミツバ篇すらもだ。

銀魂はちょっとしたセリフやシリアス長編で本筋に一瞬触れたかと思えば、次の週には完全に独立した話(C構成仕様の回)をやる。
だが、そのC構成仕様の部分が規格外に多い。
「番外編」という言葉では片づけられないほど膨大にある。

だから、B構成C構成両立型とひとまず言える。

さて、そんなC構成仕様の部分が規格外に多いと何が起こるか。

1話から読む必要がない。
そう、ストーリーはあるのに1話から見なくても大丈夫になるのだ。

キングダムを5巻から読んでも意味がわからないだろう。しかし興味深いことに、銀魂は読める。

実際、銀魂を1話から読み始めた、観始めた人は意外と少ないのではないだろうか。
筆者も銀魂は原作66訓(ヘドロ初登場回)をアニメで観たことから入った。
最低限の設定さえ知っていれば、あるいは知らなくても、いきなり34巻296訓(キャサリン結婚!?回)からすら読めてさえしまう。

つまり、新規参入のハードルが驚くほど低いのだ。

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ここがすごい②エピソード単位でミーム化している

75巻を最初から履修するのはかなりハードルが高いが、気になるキャラが出てる話を1話見てみるだけなら誰にでもできる。となると、エピソード単位で人気が出て当然「銀魂ほぼ未履修だけど、この話は知ってる」という事例も多く出てくる。
だから「履修はしてないけど銀魂知識は持っている」という特異な事態が起こる。

「バスケがしたいです」など、漫画の名言がミームになる事例は星の数ほどあるが
「銀魂の将軍回じゃん」「銀魂の葬式回じゃん」などと話単位でネットミームになる例は銀魂以外にあまり見たことがない。

これはひとつ「銀魂特有のすごさ」と言えるのではないだろうか。

ここがすごい③「ゴミ箱の中身がわかるくらい」高いキャラ解像度を読者みんなが持っている

銀魂は本筋に関わる話と完全に独立した話を交互に繰り返すことで、B構成とC構成を完全に両立させた。
とはいえB構成とC構成の両立は、長期連載なら可能だ。
例えば名探偵コナンも、本編に関係ない事件が沢山あるためB構成C構成両立型だ。

正直、コミック全77巻のうち、銀魂の「本筋に関係する話だけ」なら37巻程度にまとまる。

「じゃあダラダラ長く続けるよりも、37巻で完結した方が良かったんじゃないの?」と思われそうだが、もし37巻で終わっていたら、終わる終わる作品を繰り返してジャンプを追放され、移籍先の月刊誌を追放され、アプリ掲載になってもなお、最終回掲載時にTwitterでトレンドに入りする程の求心力は得られなかっただろう。

75巻かけて銀魂が描かれた意味。

それは銀魂の旨味を出してるのは、この”余分”な40巻分のエピソードにほかならないということだ。

40巻分も使ってメインだけではないキャラ一人ひとりを超綿密に描いたからこそ、銀魂のキャラは読者の心に根付いてる。

作者の空知英秋は「キャラのゴミ箱の中身を読者が知れるキャラ作り」を意識していると語っていたが、間違いなく大成功だと思う。
ゴミ箱の中身すら分かるキャラは、もはや紙の上のインクではなく本当に息づいている1人の人間に他ならない。

もちろん、彼らのゴミ箱の中身を知らない状態で観ても銀魂は面白い。

だが彼らのプライベートを知っている状態で観る四天王篇や一国傾城篇などはもう本当に、これでもかってほど面白い。

今朝食べた納豆のパックや鼻かんだティッシュやポストに入ってたパソコンのチラシがまだゴミ箱に入ってる人が、人を護ろうと啖呵を切ってる。
明日になったらゴミ出しして食器用洗剤を買う予定がある人が、宇宙海賊と戦ってる。

そんなことまで自然と考えられてしまう漫画、他にはない。

最終回直前で、A構成の要素が放り込まれた。

B構成とC構成は、長期連載であれば可能だ。

銀魂の構成が前代未聞であり、異質なのは、最終巻によってA構成の要素まで入れてきたからだ。

B構成とA構成は両立ができる。というか、A構成の変形型がB構成とも言える。

だが、A構成とC構成は、普通は両立不可なのである。

なぜなら「本筋に関係ない話は入れられないA構成」「本筋がないから完全に自由に話を描けるC構成」
文面を見てもわかる通り、完全に矛盾するからだ。
もっと分かりやすくいうと、
途中途中にギャグマンガ日和のエピソードが挟まるNARUTOを想像してみて欲しい。
どう考えても作品として崩壊している。だから不可能なのだ。

ここがすごい④「結局どんな作品なの?」という根幹すら、読者の解釈に委ねる

ではなぜそれが、銀魂では両立するのか。
銀魂は、超後出しで作品の目的(本筋)と主人公のゴールを出してきたからだと私は考える。

ここで、本筋やゴールの提示の仕方を解説する。

  • A構成:最初の1〜3話で話の筋や、物語のゴールが示される。「海賊王になる話なんだな」「巨人を駆逐する話なんだな」「最高のヒーローになる話なんだな」「みんなを助けられる魔法少女になる話なんだな」といった具合だ。
    どんでん返しを仕込むタイプの作品なら途中で「真の本筋」や「真のゴール」が出される場合もあるが、それでもストーリーは一貫し続ける。
  • B構成:A構成同様、最初の1〜3話で話の筋や、物語のゴールが示される。「この2人がバディとして成長していく話なんだな」といった具合にだ。A構成と違うのは「途中まではオムニバス形式で話が展開し、途中から話の筋やゴールが示される→クライマックス」というパターンも出てくることだ。
  • C構成:そもそも話の筋が無いため、作品の本筋や主人公のゴールが無くても問題ない。

つまり、「ストーリー漫画」で話を一貫させて最終回を迎えるためには作品の本筋や主人公のゴールはどんなに遅くとも物語の最終章前には示されている必要がある。

だが銀魂は最終章に入ってすら、まだ目的もゴールもぼんやりしてた。
ちなみに30巻で「銀魂は何をしたいのか、どこに向かっているのか分からない」と読者からも質問されている。

空知英秋は「将軍暗殺篇以降は最終章のつもり」と言っているが、なら銀さんは病院のベッドの上で、自分も気づかぬうちに最終章を迎えたことになる。そしてさらば真選組篇で「あいつは一体誰なんだ!」と言いながらなし崩しにラスボス戦へと飲み込まれていった。
(作者は「ラスボスは時代(笑)」と言っているが、ネタバレ防止のため以下彼のことはラスボスと表記する)

一応、「ラスボスを倒す?」「過去を乗り越える?」といったぼんやりしている筋とゴールはずっとあった。

だがこれはどちらも精神的なものに近く、火影みたいな称号も無ければウロボロス壊滅という成果も無いから、結局「何を成し遂げれば過去を乗り越えたことになる」のか分からなかったのが、701訓までの銀魂だ。
ちなみに銀魂は全704訓である。

だがようやく、最終回3話前になって、はじめて話の筋と主人公のゴールが提示された。
しかもそれすら、公式には明文化されていない。
そのため私が今まで銀魂を読んできた情報を元に主観で文に落とす。

  • 銀魂の話の筋:一度折れた坂田銀時の魂の再生。
  • 銀魂のゴール:坂田銀時が「師匠の命か仲間の命か選ばなければいけないという”宿命”」を乗り越える事
  • ゴールする条件:坂田銀時が師も仲間も死なせずに護る

読者視点で銀魂の始まりは第1訓で新八がパフェを倒したシーンだが、「坂田銀時の魂の再生」という観点から見ると銀魂の真の始まり、真の第1話は銀時の魂が一度折れたシーン、つまり攘夷戦争終結時だ。
(なぜ、どのように魂が折れたのかはネタバレ防止の為に書かない)

これによって銀時は全部捨ててかぶき町に辿り着いて万事屋を始めたから第1話の状況になり、そこから私たちの知っている銀魂が始まった。
やがてご存知の通り、銀さんには万事屋を始めとする仲間が増え、沢山の人を護り、沢山の人に護られるようになった。

そうして「坂田銀時の魂の再生」が遂にラストスパートに入った、銀魂のクライマックス。

最初の壁であり最大の壁として「師の命か仲間の命か選ばなければいけないという”宿命”」が銀時の前に立ちふさがる。
これを乗り越えなければ、銀時の魂の再生は終わらない。

一度は侍として死んで、死んだ魚の目で10年生きてきた坂田銀時が、再び侍として生き返るまでの日々

これを描いたのが銀魂という作品なのではないだろうか。

ここがすごい⑤2周目が美味い

701訓で暗に提示された銀魂の話の筋とゴールによって、銀魂は一気にA構成の要素が強くなる。

なぜなら銀時の魂が再生する為には、40巻分の仲間達との交流が必要不可欠だからだ。

本筋に関係無いと思われていた話の必要性が跳ね上がり、また一貫性が無いように見えた40巻分の”余分”な話には「銀時の為に必要な経験」という一貫性が生まれる。つまり「2周目が美味い作品」になったのだ。

「銀魂は銀時の折れた魂が再生するまでの話」と言ったが、そう表したのは、魂が折れる事=侍にとっての死という概念が銀魂にあるからだ。その概念が出てきたセリフがこちら。


「俺にはな 心臓より大事な器官があるんだ(略) ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ 。魂が折れちまうんだよ」

銀魂 43訓 坂田銀時

「侍は違う。たとえあなたを見捨て、25%の確率で運よく助かったとしても、侍は死ぬんです。 護るべきものを護れずに生き残っても、侍は死んだと同じなんです」

銀魂 143訓 志村新八

どちらも、702訓を読むまでこれほど銀魂という物語の本筋に触れているセリフだとは気がつかなかった。
2周目にして、このような発見が山のようにある。

ここがすごい⑥タイトルを何通りもの意味に解釈できる

「護るべきものを護れないと侍の魂は折れる。魂が折れることが、侍にとっての死」という考えに則り「一度折れた銀さんの魂の再生」が銀魂のストーリーだったとする。
すると、「ギリギリな単語を女子高生に言わせたかった」と空知先生が語る本作のタイトル。
今まで「銀色の魂」という意味だと思われていた「銀魂」というタイトルに、

「坂田銀時の魂の話」

という超特大の意味が付与される。しかも最終回直前に。オタクが3度の飯より好きなタイトル回収だ。

同時に、最終巻の新八の発言から「銀(=刀=侍)の魂を持つ人々の話」でもあることがうかがえる。

あるいは「坂田銀時の魂を分け与えられた人々の話」とも読めるかもしれない。

空知英秋の構成力の凄まじさを感じていただけただろうか。

ここがすごい⑦最終巻を読んで、はじめて一貫したストーリーであったことが判明する

以上の解釈を踏まえて、「ただ乱雑にキャラ達の色んな姿を描いた話」ではなく、「坂田銀時の魂の話」として読むと、銀魂は1巻からストーリーはほぼ一貫している。
鍋を奪いあったり、爺さんになったり、女になったのも、全ては銀時がTRUE ENDに辿り着く為に必要な経験だったと言える。


また、銀時が直接絡んでいない話(マダオネアや地愚蔵回など)も、それぞれのキャラの糧になり、成長したそのキャラが巡り巡って銀時を助ける。
先ほども言ったように、全て「銀さんの為に必要な話だった」と考えられるようになるのだ。

多くのA構成の作品が、頭からケツまで物語の芯を通している作品だとすれば、銀魂はケツから頭にかけて芯を通した作品だ。
B構成C構成を両立させて進み、最後の最後でA構成にすることで、銀魂はA構成、B構成、C構成、全てを両立させた。

だがこれを全て緻密に計算して15年77巻連載していたのか、というとそうではない気がする。
いや空知先生パンクな天才だからしてるのかもしれないけど。

ケツから頭に向かって物語の芯を通すという並大抵のことを可能にしたのは、銀魂は「物語がブレていない作品」ではなく「キャラがブレていない作品」だからだ。

第1話から704訓まで、銀魂のキャラクターたちは、迷い悩み間違えることはあっても、魂には一切のブレがない。

だからこそ物語にもブレが生まれず、このような構成が生まれたのだろう。

まとめ

銀魂は「漫画の本筋と主人公のゴールを最終回直前に提示する」という斬新すぎる手法を生み出し、それによって相反するはずの3種のストーリー構成を全て1作品の中に落とし込む、という化け物のような構成力によって構築された作品だ。

だがこれはブレない魂を持ったキャラクターたちがいたことで成り立つ手法である。

こんな作品は今後生まれるかどうか分からないが、少なくとも漫画史が変わった唯一無二の作品であると思う。

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